デジタル化が進む世界におけるAPIの役割

この記事は Red Hat Blog の Role of APIs in an increasingly digital world を、許可をうけて翻訳したものです。


COVID-19は世界に非常に大きな影響をもたらしました。私たちがビジネスを行う方法、働く場所、サービスを提供する方法、コミュニケーションの方法に影響を与えています。私たちは新しいやり方でこれらのことを実現していかなければなりませんが、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)はその手助けとなります。

デジタル主導の世界では、アプリケーションは経済や社会の基盤となっており、通常これらのアプリケーションは持っている機能を実行するために、さまざまな他のアプリケーションやシステムと通信し、連携する必要があります。APIはこの変化に対応していくための1つの方法となります。

APIでデジタルトランスフォーメーションを実現

絶えず進化するデジタル経済において、新しいサービスを継続的に実現するためにはAPIが必要ですが、デジタルファースト戦略の必要性からAPIはこれまで以上に優先順位の高いものとなっています。すべての組織は、迅速に変化を起こし、新しいビジネスの進め方に適応する必要性に直面しています。APIの活用により、この変革のプロセスを合理的にすすめることが可能となります。

APIのメリット

  • APIは、分散型クラウドネイティブ開発環境で選択されるアプリケーション連携のための手法であり、開発者や構築中のアプリケーションにさまざまなメリットを提供します。

  • 開発の高速化:API は複雑な接続を簡素化するため、開発者は変化するニーズに素早く対応しやすくなり、最終的には開発サイクルを加速させることができます。

  • 再利用性:API は積み木のように再利用することができるため、開発プロセスをさらに高速化し、開発生産性を向上させます。

  • 自動化:API はアプリケーションやサービス間の通信を簡素化することで自動化を可能にし、手動のプロセス、電話、ファックス、時間のかかるポイントツーポイントの連携の必要性を無くすことができます。

  • コラボレーション:多くの場合、社内のアプリケーションも外部のアプリケーションやシステムと連携する必要があります。API は、本来通信するように想定されていないような社内外のネットワークにおけるアプリケーション間のシンプルなインターフェイスとして機能することで、サードパーティとのコラボレーションを促進し、APIが無ければ実現できないような他社との協業も実現可能にします。

  • イノベーション:アプリケーション同士を個別に連携するやり方では、実装と保守にコストと時間がかかりがちです。API は低コストでシンプルであるため、様々な試みやイノベーションが促進されます。

現在と未来のためのAPI:必須のユースケース

APIは様々なユースケースにおいて利点があります。COVID-19の文脈では、組織が経済的混乱と戦っていくために、APIが役立つ主要なユースケースとして以下の4つがあります。

リモートサービス

現在、多くのサービスプロバイダーが物理的に顧客と離れており、多くの企業がビジネスのやり方を変えています。事業継続を可能にするために、多くの企業は顧客にリモートでのサービス提供を続けています。

遠隔医療は、APIがリモートサービスを可能にするのにどのように役立つかを示す好例です。患者がオフィスに来られない場合、特定の医療サービスをリモートで提供することができます。しかし、このような状況では、どのようなビデオ会議システムでも機能するわけではありません。なぜなら、その技術は保険会社の承認を得ていなければならず、政府の厳しい医療規制を満たすだけの安全性が求められるからです。

そのため、患者が医療従事者と対面するためには、専用のビデオシステムを用意する必要があります。医療提供者はこれらの新しいビデオシステムへの接続を急いでおり、APIは必要な接続を行うためのより安全で信頼性の高い方法の一部となります。

一例として、あるヘルスケアテクノロジー企業は、ヘルスケアプロバイダーが自社のシステムから消費できるAPIを開発し、プロバイダーはあらゆるアプリやウェブサイトに遠隔医療診断機能を追加することができるようになりました - AIの推論エンジンと症状、検査結果、状態の豊富なデータベースに裏打ちされています。このAPIは、カスタム症状チェッカー、トリアージアプリ、チャットボット、さらには音声対応の健康アシスタントを構築するなど、さまざまなクリエイティブな方法で使用することができます。最近では、医療従事者がコロナウイルスの症状を遠隔で診断できるようにするCOVID-19リスクアセスメントAPIの構築にも同じ技術を使用しています。

サプライチェーンの再構築

COVID-19の出現により、多くの企業は経済とそのサプライチェーンを全く新しい方法で見直すことを余儀なくされています。トイレットペーパーや医療用マスクのように、以前は日常的なサプライチェーンを持つ製品は、今ではほとんどの消費者が店頭でこれらの製品を見つけたり、オンラインで注文することができないほど需要が高くなっています。

このような時代に顧客にサービスを提供したい小売業者は、需要の変化に対応するためにサプライチェーンを再構築する方法を見つけなければなりません。APIはこのユースケースに適しています。

例えば、APIを使用することで、アプリケーションが受注、生産台数、製品の欠陥などのデータを追跡して共有できるようになりますが、これらの情報はすべて、サプライチェーンの混乱に対応するためにメーカーにとって重要なものです。また、生産現場のチームメンバーがハンドヘルドデバイスを介してデータにアクセスしたり、通信したりできるようにするためにも、APIは非常に重要です。

ある世界的な医療技術プロバイダーは、病院や医療従事者が必要とする製品の製造を急ピッチで進めなければなりませんでした。同社は、サプライチェーンの変化に対応するために製造プロセスの早急な再構築を進めていますが、それにはAPIとAPI管理が欠かせません。

また、あるヨーロッパのメーカーは、保護マスク、保護医療キット、医療用防護服セット、人工呼吸器など、中国からの寄付金をスロベニアに届けるために、サプライチェーンを一時的に変更しています。同社のITチームは、DevOpsアプローチとAPI管理を採用し、必要な変更をできるだけ早く行えるようにしました。

情報の共有

COVID-19 の危機は、企業のコミュニケーションの方法とその中身を大きく変えました。医療提供者、医療研究機関、政府機関、企業、その他の組織は、重要なコロナウイルスのデータを相互に共有し、従業員、顧客、さらには一般の人々にも重要なメッセージを伝えなければならないため、情報の共有はこれまで以上に重要になっています。

例えば、COVID-19の治療法やワクチンの研究に関わる関係者は、以前よりもはるかに迅速にデータを共有できるようにならなければなりません。わずかな情報が、ウイルスと戦い、命を救い、世界経済を回復させる鍵となる可能性があります。このような緊急性を考慮した場合、APIは世界中の多くの組織を効率的かつ安全に接続する方法となります。

ある調査会社は、世界保健機関やホワイトハウス科学技術局などのパートナーと協力して、COVID-19に関する最新の調査結果、裏付け、データへの迅速かつ直接的なアクセスを世界の医療業界に提供しています。同社は、何千ものレポートを提供し、オンラインコロナウイルスダッシュボードを提供しています。情報を発信する方法の急速な変化の中で、同社はAPIとAPI管理を利用して、情報を共有するための新しい接続方法を形成しています。

もう一つの例として、欧州の独立系・非営利のテレビ放送局は、自国でのステイホームの命令により、通常よりも高い視聴率を記録しています。この放送局は、市民がアクセスする必要のあるコロナ情勢に関する重要な情報を提供しています。健康の危機に関する最新ニュースを国民に伝え続けるために、同放送局はコンテンツと自文字多重放送のAPIを活用しています。

行政サービス

COVID-19のような危機において、APIは市民のニーズに迅速に対応するために必要な柔軟性を政府機関に提供してくれます。例えば、何百万人もの市民や企業に補助金を迅速に提供するためには、金融取引にアプローチする新しい方法が必要であり、APIを使うことで適切なシステムが適切な形で接続することができるようになります。

例えば、アルゼンチン保健省は最近APIによるデータアクセスの仕組みを実装して、新たに国によるデジタル健康ネットワークを構築し、健康に関する共通サービスへのアクセシビリティを向上させました。同省はAPIを利用して異なるデータソースを統合し、臨床記録、処方箋、公共情報をより簡単に利用できるようにしています。

APIを利用することで、アルゼンチンのどの医療センターでも、患者の相互識別システムによって検証された情報を要求して転送することができるようになりました。医師は患者の医療情報に網羅的にアクセスできるようになり、最高品質のケアを提供するために協力し合うことができるようになりました。APIは患者の医療情報保護の一環としても利用できます。一般的な医療に加えて、政府はこの同じシステムを使用することで、アルゼンチン国民が常に最新情報を得られるようにし、国内外のCOVID-19の患者数が追跡できるようになっています。

もう一つの例として、あるヨーロッパの郵政局では、顧客体験を向上させるために新しいITプラットフォームを構築し、複数のチャネルでより適切なサービスがよりタイムリーに提供できるようにしています。この政府機関では、今起こっている問題に対してより迅速に対応できるようになっています。この機関は市民の年金分配を管理していますが、多くの市民は通常、12,800か所のうちの1か所に出向いて支払いを受ける必要があります。国の強制的なロックダウンに対応し、ソーシャルディスタンスを保つために郵便局への訪問時間をずらす必要がありました。郵便局は、APIを使って構築されたオンラインと電話のチャットボットを介して、個人の指定した時間帯と支店を通信する新サービスを48時間以内で展開することができました。

さらに、ヨーロッパのある政府はAPIを使用して、COVID-19のロックダウン中に、定期的に更新される地図やデジタルハンドブックなどの重要な更新情報を公共の交通機関、企業、市民に提供しています。複数の交通機関からの最新情報を集約し、全国の様々な関係者に配信することも、必要なアプリケーションやシステムを接続するAPIを利用することで容易に実現できました。

API戦略の再考

上記の創意工夫に富んだ例はAPIのユースケースのほんの一例に過ぎません。他にも多くの組織が現在直面しているリアルタイムの状況に対処するだけでなく、将来も役立ち得るAPI戦略を立てています。

私たちの世界は瞬く間に変化する可能性があり、「未知なる未知」、つまり予測することができない変化にも備えなければなりません。現在使用しているアプリケーションとの接続性はもちろん、明日出現するかもしれない革新的なイノベーションへの接続性も提供するように、未知なる未来に向けたAPIの設計を行うことで、アプリケーション間の接続はより速く、より安全に、より簡単にできるようになっていくのです。

参考情報

* 各記事は著者の見解によるものでありその所属組織を代表する公式なものではありません。その内容については非公式見解を含みます。