アプリケーションモダナイゼーションとは何か? - 主要なアプローチ(6つのR)を理解する

こんにちは、Red Hatでコンサルをしている中川です。

今回から不定期にアプリケーションモダナイゼーションに関連する記事をアップしていこうと思います。
初回となるこの記事では、「アプリケーションモダナイゼーションって何?」という問いに対して、現場視点で噛み砕いてお伝えします。


はじめに:なんとなく知ってるけど、よくは知らない「モダナイゼーション」

最近、IT業界では「アプリケーションモダナイゼーション(以下、モダナイゼーション)」という言葉をよく聞くようになりました。
ただ、実際に関わってみると、「それって結局何をすることなの?」と迷うことも多いです。

私自身、もともとJavaやPythonでWebシステムの設計・開発・運用をしてきた中で、現在はApache Camelなどを活用したシステムの導入支援に携わっています。では、現場では「モダナイゼーション」とはどのように受け止められているのでしょうか?

モダナイゼーションとは、「今も価値を発揮できる状態」にアプリケーションを進化させること

モダナイゼーションとは、単に古いシステムを新しい技術で作り直すことではありません。
モダナイゼーションの目的は、「業務の変化」「技術の進化」「セキュリティや法令対応」などに柔軟に対応できる状態をつくることにあります。
もう少し踏み込んで言えば、「アプリケーションの価値を、現在・未来の業務に適した形で再構築・持続させること」といえるかもしれません。

❌ よくある誤解:「最新技術にすればモダナイゼーション」?

たとえば「クラウドネイティブにする」「マイクロサービスに分割する」「コンテナに載せる」といった技術的な話題と一緒にモダナイゼーションが語られることがあります。 しかし、“技術の新しさ”は目的ではなく、手段の1つにすぎません。

最新技術を導入した結果、開発や運用が複雑になったり、チームに馴染まなかったりして、逆に価値を下げてしまうこともあります。

🔄 モダナイゼーションは「今の業務とのギャップ」を埋める営み

業務はどんどん進化していきます。
たとえば顧客対応のスピードやチャネルは年々多様化し、柔軟な連携や可視化も求められるようになります。 一方で、システムはリリースされた時点から“古くなっていく”ものです。

この進化していく現実と、変化しにくいシステムとのギャップを埋める営みこそが、モダナイゼーションです。

💡 モダナイゼーションの目的は、“変えやすくすること”

最終的に目指すのは、「変えること」ではなく「変えやすくすること」です。 変化し続ける業務に対して、システムも柔軟に、スピーディに追従できる状態をつくることが、モダナイゼーションの価値です。

なぜモダナイゼーションが必要なのか? — 止まったシステム、進む現実

こういう課題、ありませんか?

  • 「この帳票のレイアウトをちょっと変えるだけで1ヶ月かかるって本当?」
  • 「クラウドに移行したいが、現行システムのコードが複雑かつ属人化していて、誰も安全に修正できない状態になっている」
  • 「あの人が異動したらこのアプリをメンテできる人がいなくなるんだけど…」

現場では、こうした“あるある”がモダナイゼーションの火種になることが多いです。

また、技術が古いと、見えないコストが増え続けます。

  • 開発言語やミドルウェアがレガシーで、対応できるエンジニアが社内にいない
  • OSやライブラリがサポート切れで、セキュリティリスクが高い
  • ドキュメントがなく、特定の人にしかわからない状態になっている

結果的に「ちょっとした改修」でも大きな工数がかかり、「変えたくても変えられない」状態に陥ります。

「まだ動いてるから大丈夫」は本当に大丈夫でしょうか?

  • テストコードがなく、動作確認はすべて手動でおこなう
  • 開発環境が古く、ビルドに時間がかかりすぎる
  • 何か障害が起きたときに、誰も中身を触れない

動いてはいるけれど、変更もできず、壊れたら復旧もできない——それがレガシーの本当の怖さです。
こうした課題の多くは、「技術的負債」が蓄積された結果です。 モダナイゼーションは、その負債を解消し、開発や運用の“健全性”を取り戻すための取り組みとも言えます。 特に日本企業では、SIerに委託して開発されたシステムがブラックボックス化し、変更や見積もりの妥当性が社内で判断できない状況も少なくありません。 モダナイゼーションを通じて構成や仕様を整理・可視化することで、ベンダとのやり取りも“アンダーコントロール”に近づけることができます。

モダナイゼーションの主要なアプローチ:Red Hatの「6R」

モダナイゼーションと言っても、方法は1つではありません。Red Hatでは、そのアプローチを「6つのR(6R)」として整理しています。
各アプローチがどのような課題に対応し、どんな効果をもたらすのかを整理すると、現状や目的に応じた選択がしやすくなります。

Rの種類 アプローチ概要 主な効果
Retire すでに使われていない、もしくは業務的に不要となったアプリケーションを廃止・削除します。レガシー資産の棚卸しの一環として実施されることが多く、意外と見落とされがちですが重要なアプローチです。 利用されていないシステムの保守・運用コストを削減し、限られたリソースを本当に必要なものに集中できる
Retain 現時点では十分に機能しており、他システムと密に連携しているなどの理由から、あえて変更せずに現状維持する選択です。将来的な移行対象として棚上げする場合も含まれます。 コストやリスクをかけず、当面は安定稼働を優先することで全体最適を図れる
Rehost アプリケーションの構造を変えずに、既存環境(オンプレミス等)からクラウドや仮想基盤へそのまま移行する、いわゆる「Lift & Shift」のアプローチです。 インフラ老朽化のリスクを回避しつつ、比較的短期間での環境刷新が可能
Replatform アプリケーションの基本構造は保ちつつ、一部をクラウドサービスやコンテナプラットフォームに適応させるなど、運用効率化やスケーラビリティ向上を目的とした改修を行います。 運用の効率化・自動化が可能になり、技術的負債の一部も軽減される
Refactor アプリケーションのコードやアーキテクチャを抜本的に見直し、クラウドネイティブ化やマイクロサービス化といった変化に対応するものです。中長期的な開発・運用の柔軟性を重視します。 技術的負債の抜本解消、ビジネス要件の変化に追従できる構造への進化
Repurchase 独自開発していたシステムをやめて、市販パッケージやSaaSなどの既製品で置き換えるアプローチです。再開発を避けることでスピーディな導入が可能です。 保守・運用コストの大幅削減、機能の標準化と外部委託負荷の軽減

このように、モダナイゼーションは“全部作り直すこと”ではなく、現状と目的に応じて柔軟にアプローチを選ぶべきです。 各アプローチの詳細や、どう選び分けるか?については、今後の記事で詳しく紹介する予定です。

おわりに:モダナイゼーションとは“技術”の話ではなく“価値”の話

現場で感じるのは、モダナイゼーションとは「技術を最新にすること」ではなく、「業務や組織にとって価値を出せるシステムを維持・進化させること」です。

古くても価値を出しているシステムもあります。 逆に、新しくても業務にフィットしていなければ意味がありません。

「どう変えるか?」を考える前に、「なぜ変える必要があるのか?」を自分たちの業務の文脈で見つめ直すことが、モダナイゼーションの第一歩です。 次回は、こうした背景にある“技術的負債”が現場にどのような影響を与えるのか、具体例を交えて掘り下げてみたいと思います。

* 各記事は著者の見解によるものでありその所属組織を代表する公式なものではありません。その内容については非公式見解を含みます。