エッジコンピューティングのエッジの定義と特徴について

はじめに

みなさん、こんにちは。 Red Hatでソリューションアーキテクトをしている小野です。

みなさんはエッジコンピューティングを検討する際に「エッジって何?どこを指してるの?」と感じたことはありませんか? それもそのはず、エッジコンピューティングはとても抽象的な言葉で、業界や団体等によって様々な定義で用いられているからです。

新しい技術ワードはあえて曖昧な定義のまま、あらゆる場面で汎用的に使用できた方が世の中に広く浸透させる上で使いやすいというメリットを理解しつつ、お客様と会話する場面では理解を共通にしておく必要がありますし、お客様の対象としているエッジの意味や特徴をある程度理解しておかないと、踏み込んだ議論が中々難しいかなと感じます。

そこで本稿では、エッジコンピューティングとは何かをざっくり俯瞰し、各エッジの特徴をまとめたいと思います。

エッジコンピューティングとは

エッジコンピューティングとは、データ生成場所に近い 場所(=エッジ)処理(=コンピューティング) を行う概念です。

Youtube等にも解説動画が多数存在し、下記の動画は参考になります。

ここで疑問に思うのは「近ければ何でもエッジなの?」という点です。

エッジコンピューティングの解決する課題として、よく以下が挙げられます。

基本はネットワークの信頼性や品質を高めたいというネットワークに関する非機能要件のメリットです。 このメリットを享受するには、「単に近いこと」だけでなく、下記の特徴をおさえる必要があります。

  • 自社の管理下にあるプライベートネットワークを介して、極力少ないHop数でアクセスできる
  • 自社の管理下にないネットワークを介する場合は、通信キャリアの網内折り返しなど、閉域ネットワークを介し、極力少ないHop数でアクセスできる

センサーや端末がコンピューティングへ接続する際に介するアクセスネットワークの低リスク化をセットで考える必要があるということです。

同時に、センサーやデバイスが設置される環境は、データセンターなどの様な潤沢なファシリティリソースがあるわけでなく、例えば店舗など、電源や空調に制約のある環境下にコンピューティングが設置されると想定されます。そのため、コンピューティングのフットプリントを小さくしつつ堅牢性や性能を損なわない様にする技術進化が求められます。 さらに、効率良く分散配置されたコンピューティング環境を運用できる様、クラウド技術の適用やエッジ向けの改善がトレンドになっています。

いわば、エッジコンピューティングとは、コンピューティングの高性能・小型化 × アクセスネットワークの低リスク化 × クラウド技術の適用・改善、と言えます。

エッジの定義

Linux Foundationのエッジコンピューティング関連のプロジェクトを推進するLF Edgeは、あらゆる業界の人が参加する上で言葉の曖昧さを回避し、業界横断のコラボレーションを促進する事を目的に、エッジコンピューティング界隈の用語をまとめたOpen Glossary of Edge Computingをリリースしています。

この定義を参考にしつつ、全体像をおさえてみると下記の様な分類になります。

  • Device Edge … アプリ処理の場所がデバイス上。エンドポイントとも言われる。
    • (類似単語) Edge Device … 端末のこと
  • Customer Edge … アプリ処理の場所がお客様拠点内のネットワーク上。CPEやサーバなど
    • (類似単語) End-User Premise Edge … お客様拠点内のオンプレミス設備
    • (類似単語) On-Premise Edge … 企業のオンプレミス環境上(End-User Premise Edgeと同義)
    • (類似単語) Enterprise Edge … 法人局舎のネットワーク上
    • (類似単語) Remote Office Edge… 本社に対する店舗や支社などの環境(場所というよりユースケース寄り)
    • (類似単語) Operational Edge… 工場などのOT(Operational Technology)が導入されている現場(場所というよりユースケース寄り)
  • Provider Edge … アプリ処理の場所がエッジ環境のプロバイダのネットワーク上
    • (類似単語) Network Edge … ネットワーク上(モバイルネットワークだけでなくISPのネットワークも含む)
    • (類似単語) Telco Edge … 通信キャリアのネットワーク上 (モバイルネットワークを指すことが多い)
      • (類似単語) Access Edge ... 基地局(RU)の設置場所
      • (類似単語) Far Edge … 基地局のコンポーネントのDUなどを設置する、県内複数場所に存在する分散局舎
      • (類似単語) Edge / Aggregated Edge … 基地局のネットワークの内、県単位などの集約局舎
      • (類似単語) Regional Edge … 関東・関西などの地域単位の集約局舎

ざっくり、Device EdgeはデバイスそのものCustomer Edgeは顧客側に導入されたオンプレミス機器で、時にDevice Edgeも包含Provider Edgeはネットワーク提供者側の環境を指し、ユースケースや場所のイメージを具体化するために類似単語が多く存在しています。

本稿では「ざっくり大枠を押さえる」ということを目的に、以下の3つのエッジで全体を定義します。

各エッジの特徴を深掘る

Device Edge

Device Edgeは、新しいデバイスの導入がハードルではないお客様にとっての選択肢です。

Chipsetの進化により、カメラやロボットなど、デバイスそのものでAIなどの高度な処理を行える様になり、様々な製品・ソリューションが登場しています。

デバイスに搭載されるハードウェアが高性能・高品質になればなるほど提供価格に影響し、Device Edgeの技術ポイントはフットプリントを小さくしつつ、いかに品質を高めるかと言えます。

On-Premise Edge

On-Premise Edgeは「既存のカメラなどの資産を有効活用して高度な処理をしたい」というニーズに応えるものです。 カメラなどの機器の取り替えに抵抗のあるお客様向けの選択肢になります。

技術的には「フットプリントが小さく高性能」に加えて、「古い機器も含めたインタフェースの対応の柔軟性」が重要になります。

例えば、特定の製造装置向け、ロボット向け、エレベーター向けなど、特定機器に特化して垂直統合モデルで多くの機種に対応する形で提供されるパターンと、 多様な機器のインターフェイスに対応しつつ、対応機種を徐々に増やしていく水平モデルで提供されるパターンの2パターン存在しています。

垂直統合モデルは、特定のベンダーにロックされる代わりに、そのベンダーの提供する機器の範囲であればサポート対象機種が広く、手軽さがメリットになります。 一方、水平モデルは、同じ空間にマルチベンダー機器が混在する場合に機器間の相互運用性を向上できるメリットがありますが、サポート対象機種を広げるのに時間がかかるというデメリットがあります。

水平モデルは例えばFIWAREEdgeX FoundryEdgecrossなど、オープンソースやコンソーシアムを通じてエコシステムを広げ、標準化が進められています。

Provider Edge

Provider Edgeは、通信キャリアなどのネットワークプロバイダのエッジ環境を指し、クラウドサービス(プラットフォームサービス)として提供されることが多いです。 これは、On-Premise Edgeに対して手軽さを向上させたものと言え、現状、ざっくり以下の3つのユースケースでまとめられます。

※通信キャリアのエッジで提供されるコンピューティング環境をMEC(Multi-access Edge Computing)とも言います。

① On-Premise EdgeのLift & Shift

② デバイスのオフロード環境として利用

③ デバイス間の状態同期や協調制御に利用

①は、例えば店舗へAIカメラを導入したいけど、新しいカメラを置くスペースがないという場合に、既設のカメラをネットワークと接続してProvider Edgeまでデータを引き込みAI処理を行う、というユースケースです。IoTゲートウェイの仮想化などもこの用途に該当します。

②は、例えば、3Dモデルのレンダリングや、ロボットやドローンなどのAI処理をProvider Edgeへオフロードし、デバイス側の低廉化や電池持ちの向上を図るというケースです。デバイスの配置場所に依存せず汎用的なオフロード環境としてProvider Edgeの活用が期待され、実証実験が徐々に開始されています。

news.kddi.com

www.aviationtoday.com

③は、例えばマルチプレイヤー型のARゲームやクラウドゲームなど、プレイヤー同士の状態に合わせて画面のレンダリングを制御するユースケースや、工場や倉庫での複数のAGVの活用や、ビルでの警備ロボットや清掃ロボットの活用など、複数のロボットを協調動作させて安全に運行できる様に制御するユースケースなどが該当します。

Provider Edgeを利用する際は、外部ネットワークへの接続が必要な点で注意が必要です。ネットワークプロバイダーとなる通信キャリアの網内で折り返すとは言え、回線コストがかかりますので、TCO(Total Cost of Ownership)で見たときに必ずしもOn-Premise Edgeより安くなるとは言い切れません。

5Gの観点では、On-Premise Edgeはローカル5Gと、Provider Edgeはパブリック5Gと親和性が高く、5Gを使いたい場合にProvider Edgeしか選択肢がないわけでないので、取り扱うデータのセキュリティやファシリティの制約、発生するデータトラフィックなどを鑑みてエッジを選択するのが良いでしょう。

エッジコンピューティングの今後

2021年までは、AIエンジンの低廉化によってAIカメラなど、デバイス自体を高度化する流れが生まれました。ネットワーク観点では5Gが登場し、一部のユースケースでMECを用いた実証実験が進められています。

2022年より、ネットワークの高度化(5G SA)によって通信制御の柔軟性が向上し、広域に分散配置されたMECへ柔軟にアクセスさせることが可能になります。広域分散MECの検討が進むことで、デバイス処理のオフロードの実現性が高まり、高度なデバイスの多様化が進んでいくことが期待されます。

まとめ

本稿では、エッジの定義をざっくり俯瞰した上で各エッジの特徴をまとめました。 今後も引き続きエッジコンピューティングを紹介していきたいと思いますのでよろしくお願いします!

* 各記事は著者の見解によるものでありその所属組織を代表する公式なものではありません。その内容については非公式見解を含みます。