RHEL8ドキュメント翻訳の裏側「GA公開」プロジェクト

Red Hatのもえわきです。RHELの翻訳プロジェクトコーディネーター兼トランスレーターをしています。

このたび、ローカリゼーション(各国の言語への翻訳を担当する部署)のRHELチームは、RHEL8の一般公開日(GA)に、日本語ドキュメントを20冊以上公開しました。これほど多くのドキュメントを、RHELのGAと同時に公開することはこれまでなかったとのことで、社内でちょっとした注目をあびました。今回は、GAと同時に日本語ドキュメントを公開するまでの軌跡をご紹介したいと思います。

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カスタマーポータルのRHEL8ドキュメントのページ

もくじ

目標は、日本語版の「GA公開」

RHELはRed Hatのコア製品であり、多くのお客様にご利用頂いております。また、RHEL7のリリースから5年も経っているため、日本の多くのお客様、パートナー様からも注目度の高い製品です。

RHEL8は、英語ドキュメント自体も、これまでのメジャーバージョンと異なり「一から書き直し」が計画されていたため、日本語だけでなく英語も(英語も!)、そもそもGAに間に合うか分からないと噂されていました。このような背景から、今回RHEL8の翻訳プロジェクトを進めるにあたり、まずは、ローカリゼージョンプログラムマネージャー(PM)であるLuděk Janda(ルジェック・ヤンダ)と2人で、目標を「GA公開」に定めました。実際には、RHEL7から引き継いだ部分も多く、当初予想されていたよりは工数を短くできたのですが、これまでと作業環境が異なったため課題も多くありました。

  • 英語ドキュメントの作業フォーマットが変更になったため、既存の翻訳が使えず、余計な工数が発生した

  • 英語ドキュメントが絶えず更新されていくため、GAまでに数バージョンの翻訳が必要になった

  • 翻訳に使用するツールを変更したため、さまざまな問題が発生した

  • GAの直前まで英語が更新された

  • GAがゴールデンウィーク直後!

日本語翻訳版をGAに公開するまでの軌跡

PMとの連携が重要

このように、いろいろ課題がある中で「GA公開」を実現するために、ルジェックと私が行ったことを少し説明します。弊社ローカリゼーションチームはオーストラリアに拠点がありますが、ルジェックはRHELの英語ドキュメントを制作するチームがいるチェコ、私は日本にいるため、RHEL翻訳チームは、PMとコーディネーターともに、協働する相手と近いところにおり、非常に理想的な体制となっております。

日本オフィスからの意見を吸い上げる

私は去年の夏の終わりぐらいにRHELのコーディネーターを担当することになり、同時にRHEL7までの翻訳状況とそれに対する要望を日本オフィスから集め、そのときの意見を踏まえ、「GA公開」の可能性を探し始めました。同時期、ルジェックが英語ドキュメントチームと話し合いを重ね、「英語の作成と同時に翻訳を進め、3週間ごとに翻訳の元になるソースファイルを更新する」同意を得ました。この時点で、すべてのドキュメントを翻訳することはできないことが明らかだったため、日本オフィスやパートナー企業からの意見を元に、GAに公開する日本語ドキュメントの数を20強まで減らしました。

急な修正への対応

一般公開が近づくにつれて、英語ドキュメントの更新量が多くなっていきました。予想外な問題が発生することも、連絡もなく突然タイトルが変更になることも増えてきて、そのたびにルジェックは英語ドキュメントの作成者の席にまで行き、問題に対応してきました。「問題が発生してPMに報告すれば、次の日の朝には修正されている」、これもまた非常に理想的な環境です。

大幅な修正が!

逆に、一番大変だったことは、GA直前にゴールデンウィークがあり、その1週間前に最後の大型更新が発生したことです。蓋を開けてみないと工数がわからないとは言え、直前の大型更新に気が遠くなりながらも、残り時間の少ない中「GA公開」を合言葉に、二人で公開ギリギリまで粘りました。

ついに!

そんなこんなで、5月7日。アメリカ時間午前8時(チェコ時間午後2時/日本時間夜9時)、とうとうその時がやってきました。「英語ドキュメントの公開が始まった」、ルジェックからそんな短いメッセージが届いた直後、英語ドキュメントのPMが英語ドキュメントを公開するのに合わせて、ルジェックが日本語ドキュメントを公開。自宅で待機していた私は、カスタマーポータルで公開されているのを確認。予定されていたドキュメント、無事にすべて英日同時公開です。やった!

こうして、私たちの半年近いプロジェクトがようやく終わりました。

最後に

「読みたいのに日本語がない」、こんな経験が少しでもなくなればとの想いで始めたこのプロジェクトですが、このようにして、私たちは、日本のお客様、パートナー様にいち早く日本語版を届けるという目標を達成できました。次の目標は「定期的な更新」です。引き続き、より多くの方にRHELをご利用いただければと思います。

access.redhat.com

* 各記事は著者の見解によるものでありその所属組織を代表する公式なものではありません。その内容については非公式見解を含みます。