Red Hatの小島です。
RHEL7は2024年6月30日にメンテナンスサポートフェーズが終了し、延長ライフフェーズ(Extended life phase. ELP)に入りました。ELPではこれまでに提供されたソフトウェアなどを引き続き利用できますが、テクニカルサポートが限定的なものとなります。 ELPでは、テクニカルサポートがインストール済みの既存システムに限定され、バグ修正、脆弱性修正、ハードウェアへの対応、問題発生時の根本原因の分析などは行われません。
そのため、バグ修正や脆弱性修正などのサポートを引き続きご希望であれば、新しいメジャーリリースのRHEL(RHEL9など)に適宜更新していただく必要があります。その際の更新猶予期間として延長サポート(Extended Life-cycle Support. ELS)もレッドハットでは提供しています。Azure Marketplaceで提供される従量課金制のRHELをご利用されている場合でも、従量課金制のRHEL7 ELSをご利用いただけます。本記事ではAzure Marketplaceでの従量課金制RHEL7 ELS利用時の注意点と、実際の利用方法の概要をご紹介します。
- 従量課金制のRHEL7 ELS利用時の注意点
- 準備するもの
- プライベートオファー発行のためのRed Hatへのお問い合わせ
- プライベートオファーのURLからのRHEL7 ELS購入
- 従量課金制のRHEL7 ELS利用の参考手順
- 従量課金制のRHEL7 ELS使用量の確認
従量課金制のRHEL7 ELS利用時の注意点
従量課金制のRHEL7 ELSをご利用される場合、次の点に注意してください。ご利用の際に、後述する従量課金専用のRHEL ELSサブスクリプションを持っておく必要があります。
- RHEL7 ELSのサポートポリシーは、Red Hatが定義した内容に準拠します。
- 上記サポートポリシーに従ったRHEL7 ELSのサポート対象については、MicrosoftではなくRed Hatがサポートを提供します。
- 最新マイナーリリースのRHEL7.9に限定されます。
- RHEL7の古いマイナーリリース(RHEL7.5など)の場合は、サポートされません。
yum update
コマンドなどでRHEL7.9に更新してください。
- RHEL7 ELSのサポートは、インストール済みの既存RHEL7システムに限定されます。
- 2024年7月1日以降に新規インストール/構築されたRHEL7システムは、サポートされません。
準備するもの
以下の2つのアカウントが必要になります。
- Red Hatアカウント
- Azureアカウント
- Azureの請求先アカウントID(Billing Account ID)と、それに紐付いたサブスクリプションID(Subscription ID)を利用します。これらについての詳細は、下記のMicrosoftドキュメントをご参照ください。
Azure MarketplaceでのRHEL7 ELSは、Microsoftのサードパーティ製品としてRed Hatが販売します。
下記がRHEL7 ELSのカタログです。
azuremarketplace.microsoft.com
RHEL7 ELSに関するソフトウェアは、Microsoftではなく、Red Hatが運用しているリポジトリから提供します。このRed Hatのリポジトリにアクセスしていただく権限を、Red Hatがユーザーに割り当てるためにRed Hatアカウントを必要とする仕組みになっています。Red Hatアカウントの作成方法については、下記のRed HatのWebページをご参照ください。
「Red Hatアカウントの管理について不明点があるから確認したい」「(後述する)AzureアカウントとRed Hatアカウントの連携状況を確認したい、または連携を解除したい」などのリクエストがある場合は、Red Hatのカスタマーサービスまでお問い合わせください。
プライベートオファー発行のためのRed Hatへのお問い合わせ
2024年7月時点では、日本のユーザーは上記のAzure Marketplaceのカタログから直接購入することはできません。Azure MarketplaceでのRHEL7 ELSは、全てプライベートオファー経由での提供となります。そのため、下記のWebページの「購買専用のお問い合わせ」からRHEL7 ELS購入希望をお問い合わせください。折り返しRed Hatの担当者からご連絡を差し上げます。その際に、Microsoft Azure 従量課金コミットメント(MACC)契約の有無などをご確認させていただく場合があります。
プライベートオファーのURLからのRHEL7 ELS購入
プライベートオファーはAzure Billing Account IDごとに発行されます。そして、この購入手続きは、プライベートオファーが発行されたAzure Billing Account IDに紐付いているAzure Subscription IDごとに必要です。購入手続きを実施したAzure Subscription IDで、RHEL7 ELSの利用を有効化したRHELインスタンスを実行する必要があります。
Red Hatの担当者が発行したプライベートオファーの管理画面から、Azure MarketplaceでのRHEL7 ELS購入手続きを実施します。発行されたプライベートオファーをクリックすると、次のような画面が表示されますので「Subscribe」ボタンをクリックします。
その後、次のような画面が表示されますので、下記を選択・入力していきます。この時、価格が「vCPU Hours: $0.008 per vcpu hour」と表示(注: この表示価格は税抜き価格です)されていることを確認してください。選択や入力が完了したら「Review + subscribe」ボタンをクリックします。
- RHEL7 ELSのインスタンスを実行するAzure Subscription IDを選択
- RHEL7 ELSのインスタンスを実行するAzure Resource group
- Azure Marketplace上のサードパーティー製品としてRHEL7 ELSを利用するための、Azure SaaSの名前。この名前は任意に付けられます。
確認画面が表示されますので、問題なければ「Subscribe」ボタンをクリックします。
その後、次のような画面が表示されますので、「Configure account now」ボタンをクリックします。
すると、Azure PortalのページからRed HatのWebページに遷移して、ログイン画面が表示されます。このログイン画面ではAzureアカウントではなく、前述した手順で作成したRed Hatアカウントでログインしてください。
Red Hatアカウントでのログインが完了すると、AzureアカウントとRed Hatアカウントの連携確認画面が表示されます。ここで表示される「terms and conditions」はRed HatのEnterprise Agreement (EA契約) です。問題なければ、チェックボックスにチェックを入れて「Connect accounts」ボタンをクリックします。
これでRed Hatアカウントに従量課金専用のRHEL ELSサブスクリプションが割り当てられます。下記のURLから、次の画面に表示されるRHEL ELSのPremium(24時間365日サポート)サブスクリプション(Red Hat Enterprise Linux Extended Life Cycle Support (On-Demand, Hourly Production Support))が割り当てられていることを確認してください。確認できれば、RHEL7 ELS購入手続きは完了です。このRHEL ELSサブスクリプションを持って、ユーザーはRHEL ELSのソフトウェアを入手したり、Red Hatサポートチームへの問い合わせが可能になります。この画像では数量(Quantity)が2となっていますが、最低1つあればO.K.です。
- RHEL ELSサブスクリプション情報を確認するためのURL: https://console.redhat.com/subscriptions/inventory
RHEL ELSサブスクリプションがRed Hatアカウントに割り当てられていないと、以降の手順には進めません。RHEL ELSサブスクリプションが割り当てられていない場合、これまでの手順を正しく実施していたかどうかを見直してみてください。
従量課金制のRHEL7 ELS利用の参考手順
ここで記載しているRHEL7 ELSの利用手順は、次のURLの記載内容に従った参考手順です。この手順を実施する場合、RHEL7のパッケージ更新に伴う再起動を除いて、既存のRHEL7インスタンスの再作成や再起動は必要ありません。 access.redhat.com
この参考手順について不明な点がありましたら、上記で発行されたRHEL ELSサブスクリプションが割り当てられたRed Hatアカウントで、Red Hatサポートチームにお問い合わせください。 access.redhat.com
最初にAzure上でRHEL7 ELSの利用状況をレポートするためのhost-meteringサービスをインストールして起動します。このサービスがRed Hatに使用状況を定期的に送信し、この送信された情報をRed HatがMicrosoftに送信することで、Azure Marketplace上でRed Hatが販売するRHEL7 ELSの利用料金を、Microsoftがユーザーに請求するという仕組みになっています。ファイアーウォールやプロキシ経由でhost-meteringサービスによる使用状況送信を行う場合、2024年7月時点では下記URLへの経路を確保してください。
https://cert.console.redhat.com/
Azure上の従量課金制RHEL7インスタンスでは、デフォルトでRHEL7のソフトウェアリポジトリが利用できるようになっていますので、そのリポジトリ経由で次のコマンドを実行して、host-meteringパッケージをインストールします。このとき、最新版のsubscription-managerパッケージが必要となりますので、yum update
コマンドでsubscription-managerパッケージも更新します。
$ sudo yum -y update subscription-manager $ sudo yum -y install host-metering
次に以下のWebページからRHEL7 ELSの利用を有効化するための証明書をダウンロードします。
- 証明書ダウンロード先のURL: https://access.redhat.com/labs/rhpc/
証明書をダウンロードするために、下記の画像のようにRHEL ELS 7.9 x86_64を選択するようにしてください。このとき、フィルターボックスにRed Hat Enterprise Linux Server - Extended Life Cycle Support
とコピペするとスムーズに選択できます。「Action」の下にある矢印アイコンをクリックします。
すると、次の画面が表示されますので、Option1かOption2のいずれかの方法を用いて証明書をダウンロードしてRHEL7インスタンス内に保存します。このときOption1では自動で、Option2では手動でsubscription-manager register
コマンドによるRed HatへのRHELシステム登録が実施されますが、登録の際はRHEL ELSサブスクリプションが割り当てられたRed Hatアカウントのユーザー/パスワードを使ってください。Option2の手動登録の際は、登録情報を紐づけたActivation Keyを使うこともできます。
ファイアーウォールやプロキシ経由で、subscription-managerコマンドによるRHELシステム登録などを実行する場合、次のWebページを参考にしてください。
RHEL7インスタンスへの証明書ダウンロードが完了したら、次のコマンドを実行してhost-meteringサービスを有効化します。
$ sudo subscription-manager refresh $ sudo systemctl enable --now host-metering.service
host-meteringサービスがすでに起動されている場合は、証明書の情報を反映するためにhost-meteringサービスを再起動します。
$ sudo systemctl restart host-metering.service
ここまでの手順で、Red HatへRHEL7 ELSの使用状況を送信するhost-meteringサービスの設定が完了しました。
この後に、Azure内でデフォルトで利用可能な内部Red Hat Update Infrastructure (RHUI)リポジトリーに加えて、Red HatのContent delivery network (CDN)から配信するELSのコンテンツを使用できるように設定するために、次のsubscription-managerコマンドを実行します。subscription-manager register
コマンドによるRHELシステム登録は、前述したOption1による証明書保存スクリプトを実施している、または、前述したOption2による手動でのRHELシステム登録を実行している場合は不要です。
$ sudo subscription-manager register $ sudo subscription-manager config --rhsm.manage_repos=1 $ sudo subscription-manager repos --enable rhel-7-server-els-rpms
これでRHEL7 ELSの利用準備が完了です。yum repolist
コマンドでAzureのRHUIリポジトリに加えて、Red Hat CDNから配信するRHEL7 ELSリポジトリ(リポジトリーID: rhel-7-server-els-rpms/x86_64)も参照できるようになっていることが確認できます。この状態になると、yumコマンドなどでRHEL7 ELSリポジトリからのパッケージのダウンロードやインストールが出来るようになります。
$ sudo yum repolist 読み込んだプラグイン:langpacks, product-id, search-disabled-repos, subscription-manager, yum_rhui_plugin リポジトリー ID リポジトリー名 状態 rhel-7-server-ansible-2-rhui-rpms/x86_64 Red Hat Ansible Engine 2 RPMs for Red Hat Enterprise Linux 7 Server from RHUI 103 rhel-7-server-dotnet-rhui-rpms/7Server/x86_64 dotNET on RHEL RPMs for Red Hat Enterprise Linux 7 Server from RHUI 1,417 rhel-7-server-els-rpms/x86_64 Red Hat Enterprise Linux 7 Server - Extended Life Cycle Support (RPMs) 34,485 rhel-7-server-rhui-extras-rpms/x86_64 Red Hat Enterprise Linux 7 Server - Extras from RHUI (RPMs) 1,488 rhel-7-server-rhui-optional-rpms/7Server/x86_64 Red Hat Enterprise Linux 7 Server - Optional from RHUI (RPMs) 24,422 rhel-7-server-rhui-rh-common-rpms/7Server/x86_64 Red Hat Enterprise Linux 7 Server - RH Common from RHUI (RPMs) 243 rhel-7-server-rhui-rpms/7Server/x86_64 Red Hat Enterprise Linux 7 Server from RHUI (RPMs) 34,484 rhel-7-server-rhui-supplementary-rpms/7Server/x86_64 Red Hat Enterprise Linux 7 Server - Supplementary from RHUI (RPMs) 517 rhel-7-server-rpms/7Server/x86_64 Red Hat Enterprise Linux 7 Server (RPMs) 34,484 rhel-server-rhui-rhscl-7-rpms/7Server/x86_64 Red Hat Software Collections RPMs for Red Hat Enterprise Linux 7 Server from RHUI 14,708 rhui-microsoft-azure-rhel7 Microsoft Azure RPMs for Red Hat Enterprise Linux 7 (rhel7) 5 repolist: 146,356
従量課金制のRHEL7 ELS使用量の確認
Azure Portalのコスト分析の画面から、他のAzureリソースと共にRHEL7 ELSの使用量を(およそ翌日以降に)確認できます。Azure PortalでRHEL7 ELSを利用開始する際に付けたAzure SaaSの名前(下記画像の例では「rhel7-els-saas01」)を参照して、利用料金を確認できます。RHEL7 ELSは実行されたRHEL7インスタンスのvCPU総数に応じて、Azure Subscription IDごとに時間単位(hourly)で課金されます。RHEL7 ELSの利用を有効化しているRHEL7インスタンスを停止または削除すれば、RHEL7 ELSサブスクリプションの課金は止まります。