Red Hatでソリューションアーキテクトをしている田中司恩(@tnk4on)です。 最近セールス活動の中でIBM ZでOpenShiftを動かす案件に携わったのでそこで得られた情報などをシェアします。
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(IBM Zは)神でも悪魔にでもなれる
IBM Zって何?メインフレームって?
IT業界に居ればメインフレームという言葉は聞いたことがある人も多いと思います。写真のイメージからはまさに(ITの)「鉄(くろがね)の城」。 そんなIBM Zの製品ページはIBMのサイトのITインフラストラクチャーのカテゴリにあります。IBM Zのハードウェア、z/OSやその上で動くソフトウェア、などなどIBM Zが提供するものは様々です。詳細は下記ページを参照ください。
上記ページを読んでもいまいちIBM Zが何かピンとはこない…。そんな時はIBM Zを知るヒントとして「IBM Z憲章」が参考になりそうです。
IBM Z憲章を読む限り、IBM Zは「こういった製品」や「こういうシステム」と規定するものではなく、「IBMがデジタルで課題に取り組むテクノロジーの体現」といった印象を受けます。
IBM Z憲章には下記のような記述があります。
約3兆5000億円を投入してRed Hatを買収したことは、ハイブリッドクラウドへのIBMのコミットメントを反映しています。これは全社規模の取り組みで、IBM Zはその戦略の重要部分です
IBM Zで「クラウド・ジャーニー」を歩み始めるお客さまのために、Red HatポートフォリオがIBM Zの製品ロードマップに緊密に組み込まれています。OpenShift はすでに IBM Z上のLinuxで稼働しz/OSからも連携可能です。
これを読むだけでもIBM Zの重要性がよく分かりますし、OpenShiftがそれを担う存在であることも確認できます。IBMとRed Hatという異質な両社がタッグ組んだ姿はまさに「東映まんがまつり」のような夢の共演、胸が熱くなりますね。
次は、IBM Zの上で動くOpenShiftについて。
動く、動く、OpenShiftが(IBM Zの上で)動く!
今日時点ではすでにOpenShiftをIBM Zの上で動かすことができます。
サポートプラットフォームに登場したのはOCP v4.4のリリースノートから。
UPIインストール自体はv4.2からテストされていました
- OpenShift Container Platform 4.x Tested Integrations (for s390x) - Red Hat Customer Portal
IBM Zの上でOpenShiftを実行する方法はIBMのドキュメントの多くで確認することができます。
- リファレンスアーキテクチャー
- リファレンスアーキテクチャー紹介のウェビナー動画と資料へのリンク
- OpenShift on IBM Zのパフォーマンスに関する資料
- インストールガイド
- IBM Redbooks
また、IBM Z and LinuxONE Communityのページにも多くの動画と資料が公開されていますのでこちらも参考になります。
ユースケース
こちらの動画と資料では、OpenShiftをIBM Zの上で動かすユースケースとして下記の5つが挙げられています
- Data gravity on IBM Z(IBM Z上のデータグラビティ)
- Application Development Consistency(アプリケーション開発の一貫性)
- Consolidation and TCO Reduction(統合とTCO削減)
- Blockchain and Digital Asset Management with RHOCP(RHOCPによるブロックチェーンとデジタルアセット管理)
- Business Continuity(ビジネス継続性)
この中でも1番は、
コンテナ化されたアプリケーションと、z/OSやLinux上のDatalakes、Enterprise Database、Transactional Servicesなどの従来のワークロードをIBM Z上で共存させること
とあり、IBM Zの上でOpenShiftを動かす目的を非常に分かりやすく表しています。
リファレンスアーキテクチャー
IBM Z上でOpenShiftを実行する際に一番参考になる資料が先に紹介したリファレンスアーキテクチャーです。この資料はIBMだけでなくRed Hatのコンサルタント・エンジニア・プロダクトチームの共作で、まさに双方のトップノッチエンジニアによる賜物です。 アーキテクチャーデザイン、運用、アプリケーション、それぞれの面での考慮事項について非常に詳細に記述されています。 特にコンテナプラットフォームで重要なストレージに関する部分には、OpenShift Container Storage(以下、OCS)、現名称:OpenShift Data Foundation(以下、ODF)についてバッチリ書かれています。
OCS/ODFはOCPと実データ格納ストレージとの間にSoftware-Definedなレイヤーを提供し、OCPと統合されたインターフェイスからブロック/ファイル/オブジェクトストレージを動的に切り出すことができ、さらにプラットフォームを超えたOCPクラスター間でのデータフェデレーションを提供します。アプリケーションの可搬性にデータの可搬性も加わることにより、あらゆる場所でのアプリケーションの実行が可能になり、これこそがまさにハイブリッドクラウドの体現、Red Hatの掲げるOpen Hybrid Cloudのアプローチです。 なお、OCS/ODF v4.8時点においてIBM Z上での稼働はサポート対象です*1
OCS/ODFについてOpenShift on IBM Zのリファレンスアーキテクチャーにしっかり記載があることは非常に意義があることと感じます。
(参考)IBMによるOCS on IBM Zのウェビナーの録画と資料は下記より参照できます
次はIBM Z上にOpenShiftをインストールする方法について。
(IBM Z上に) UPIインストール、オン!
IBM Zは以前のOpenShift on Nutanix AHVの時のように簡単に自宅ラボで用意してテスト…とはいかないので、今回はドキュメントベースで解説します。
IBM ZへのOpenShiftインストール方法でサポートされているのはUPIインストールのみです。
OCPインストーラーのopenshift-install
バイナリはs390x
アーキテクチャーのものを選択します。同様にRed Hat Enterprise Linux CoreOS(以下、RHCOS)のバイナリもs390x
アーキテクチャーを使用します。
Red Hat の製品ドキュメントの該当部分は下記になります(OCP v4.8)
- 第9章 z/VM を使用した IBM Z および LinuxONE へのインストール OpenShift Container Platform 4.8 | Red Hat Customer Portal
- 第10章 RHEL KVM を使用した IBM Z および LinuxONE へのインストール OpenShift Container Platform 4.8 | Red Hat Customer Portal
UPIインストールする際にRHCOSをIBM Z上に仮想マシンとして用意する必要がありますが、その際の方法が2種類あるため該当ドキュメントが2つ用意されています。
どちらの方法でもUPIインストールとしては標準的な手順であり、前提条件なども同じです(IBM Z固有のものは除く)。懸命な本ブログ読者であれば「まぁいつものアレか」くらいで流せると思います。実機で試したわけではないのでIBM Z特有のハマりどころなどはあるかもしれませんが、ドキュメント上はOCPのUPIインストール自体は同じだと確認できます。
まとめ
IBM ZはIBMの戦略にとって重要でありハイブリッドクラウドを実現するためにはOpenShiftが必要です。これらのことはIBM Z憲章から確認できます。 また、IBM Z上でOpenShiftを動かすこと自体はすでに可能であり、非常に詳細なリファレンスアーキテクチャーやインストールガイドが用意されています。 なお、IBM Z上へのOpenShiftのインストール方法は現在ではUPIインストールのみがサポートされています。IPIインストール時のようなAPIを利用した動的なノード追加などはできない点は注意です。
IBMから非常に多くの資料が公開されており、またOpenShift on IBM Zに関するウェビナーなども継続して行われています(英語のみ)。IBMにとってIBM Zが重要な存在である限り、OpenShift on IBM Zの機能追加や改善などは今後も十分に期待ができ、そのことがますますIBM、Red Hat双方にとってOpenShift on IBM Zの重要性を高めていくのではないでしょうか。
なお、マジンガーのストーリでは代わりにグレートマジンガーが出てくるのですが、現実における主役交代はどうなっていくのか。今後も目が離せませんね。
*1:古いv4.6までを対象としたドキュメントにはTech Previewの記載があるため念の為記載