こんにちわ。
Red HatのSolution Adoption Architectの石倉です。
Red Hatで、カスタマーサクセスチームに所属する技術営業です。
昨今、SAP社の基幹システムアプリケーション(SAP S/4HANA)をSAP社が提供するクラウドサービス(RISE with SAP)に移行するケースも増えてきていますが、
従来通り、管理・運用をお客様ご自身で実施されたいというご要望も多く頂きます。
更にその際、HW資産管理業務の省力化などの理由で、データセンターにSAP社基幹システムアプリケーション(SAP S/4HANA)を設置するのではなく、AWSのようなパブリッククラウド上でセルフマネージド型のSAP S/4HANAを構築し、データ移行、最新版へのバージョンアップを実施するケースもよくお聞きします。
Red Hatでは、SAP社、AWSとも協業し、以前はデータセンターでセルフマネージド型運用を行っていたECCのような旧バージョンのSAP社アプリケーションをバージョンアップする際、
AWSにマイグレーションしても、データセンターに配置していた場合と同様の操作感で利用出来るOSのサブスクリプションもご用意をしています。
本稿では、AWS上でSAP S/4HANAをセルフマネージド運用する場合に利用可能なSAP向けRHELソリューションの紹介をさせて頂きます。
SAP S/4HANAはLinux上で稼働し、Red Hat製のRHEL(Red Hat Enterprise Linux)でも動作サポートされています。
Red Hatでは、RHEL(Red Hat Enterprise Linux)に、SAP S/4HANAの動作、運用で必要な機能を追加した、
SAP向けRHELである、RHEL for SAP Solutionsという型番でSAPユーザ様向けにOSをご提供しています。
AWS Marketplaceにて購入する際は、RHEL for SAP Solutionsとほぼ同じコンポネントを含んでいる、
「RHEL for SAP with HA and US」という型番でご提供をしています。
*HA : High Availability の略
*US : Update Services の略
具体的にどのような機能が含まれているかは、弊社Knowledgebaseの記事で確認が可能です。
Amazon Web Services のよくある質問での Red Hat Enterprise Linux for SAP - Red Hat Customer Portal
標準のRHELと同様、SAPアプリケーション用のRHELでも、追加で以下がAWS Marketplaceで購入・利用できるようになっています。
- Red Hatがサポートする従量課金制のSAP向けRHELサブスクリプション (3P PAYG SAP向けRHEL)
- AWSだけでなく、オンプレミス(以下、オンプレと記載)や他のクラウドでも利用できる年間契約制のSAP向けRHELサブスクリプション
なお、通常のRHELの場合は、Red Hat小島さんが書かれたこちらを御覧ください。
AWS Console/Marketplaceで購入できるRHELサブスクリプション(オンプレ/他クラウド用含む) - 赤帽エンジニアブログ
以降で、AWS Console/Marketplaceから購入できるSAP向けRHELサブスクリプションや、それらに紐づいているRHEL AMIの種類について、2025年5月時点の情報をご紹介します。
- AWS Consoleで購入できるSAP向けRHELサブスクリプション (1P PAYG SAP向けRHEL)
- AWS Marketplaceで購入できるSAP向けRHELサブスクリプション (3P SAP向けRHEL)
- まとめ
AWS Consoleで購入できるSAP向けRHELサブスクリプション (1P PAYG SAP向けRHEL)
以前から利用が可能であった、AWSがサポートするSAP向けRHELサブスクリプションです。
これはAWS Consoleから購入して利用しますが、AWS Marketplaceにもそのリストが掲載されており、
- 提供元またはパブリッシャーが「Amazon Web Services」
- 「Red Hat Enterprise Linux for SAP with HA and Update Services ?.?」という名前が付いている
注: ?.?は、8.8など、OSのバージョンが入り、バージョン毎にMarketplaceでページが違うの特徴です。
ものです。
SAP向けには、RHEL8 と、 RHEL9 があります。
*下記は、Marketplace上で、パブリッシャーが「Amazon Web Services」、OSが「Red Hat Enterprise Linux」でフィルターした、SAP関連の検索結果です。
AWS Marketplace: Search Results
これらのSAP向けRHELはAWSにとってのファーストパーティ製品でもあるので、便宜上1P PAYG SAP向けRHELと呼ぶことにします。
通常のRHELと異なり、SAP向けのRHELのリリース状態は以下のようになっています。
- SAP向けRHEL8 : Red Hat Enterprise Linux for SAP with HA and Update Services 8.8 が最新(最終)リリース
- SAP向けRHEL9 : Red Hat Enterprise Linux for SAP with HA and Update Services 9.2 が最新(最終)リリース
注:残念ながら、 8.10 や、 9.4 以上のバージョン、また、最新メジャーバージョンの 10.x シリーズは2025年5月現在、将来のリリース予定がありません。ですので、新規に導入をお考えのお客様は、特別な理由がない限りは後述する3P PAYG SAP向けRHELのご利用をご検討ください。
なお、例えば 8.8 などの古いリリースをご購入頂き、ご自身でマイナーリリースをアップデートしてご利用頂くことは可能ですし、サポートもされます。
以下はSAP向けRHEL8でのアップデート例です。数個のコマンドを実行することで、古い 8.* の OS を、簡単に最新版の 8.10 にアップデートする事が可能です。
How to update RHEL from 8.* to 8.10 on Cloud images with the "RHEL for SAP with High Availability and Update Services" subscription - Red Hat Customer Portal
AWS Marketplaceで購入できるSAP向けRHELサブスクリプション (3P SAP向けRHEL)
Red HatがサポートするSAP向けRHELサブスクリプションです。従量課金制と年間契約制で利用できるRHELサブスクリプションがあります。これらは、Red HatがAWS Marketplaceで販売しているものとなります。
Red HatがAWS Marketplaceで販売している製品は、提供元またはパブリッシャーが「Red Hat」のものとなります。
*「Red Hat Limited」提供の製品はEMEA地域専用のものなので、基本的に日本のお客様は使えません。
*下記は、Marketplace上で、パブリッシャーが「Red Hat」でフィルターした、SAP関連の検索結果です。
AWS Marketplace: Search Results
「Red Hat Enterprise Linux for SAP with HA and Update Services」をご選択します。
注: 購入ステップの中で、対象のOSバージョンを選択する形になるのが特徴です。
3P PAYG SAP向けRHELは、以下が含まれています。詳細はリンク先のWebページをご参照ください。
- Red Hatサポートチームが提供するプレミアムサポート
- Red Hat - SAP社間での協業サポート(問題の早期解決のため、Red HatとSAP社間でサポート情報の連携を行っています)
- Red Hat Update Infrastructure (RHUI)を利用したRHELパッケージのダウンロード/インストール/アップデート
- 一般提供 (GA) の開始日から 4 年間、特定の RHEL マイナーリリースのサポートを提供する Update Services for SAP Solutions
注: RHUIはクラウド環境専用のRHELリポジトリであり、3P PAYG SAP向けRHELではデフォルトで利用できます。
利用料金
3P PAYG SAP向けRHEL
3P PAYG SAP向けRHELの利用料金は、EC2インスタンスの利用料金とは別にAWSから請求されます。つまり、
- ソフトウェア(SAP向けRHEL)の利用料金 (AWSリージョンごとの違いは無し)
- EC2インスタンス(OSタイプはLinux)を含むAWSインフラの利用料金
の合計金額がAWSから請求されることになります。料金情報は、Marketplace画面などから確認できます。
Red Hat SubscriptionsカタログでのSAP向けRHEL
SAPアプリケーションを利用する場合、数ヶ月という短期利用ではなく、数年を見越した長期利用のケースは多いと思います。 その場合、「Red Hat Subscription」カタログから、SAP向けRHELを年間サブスクリプションで購入することもご検討下さい。
AWS Marketplace: Red Hat Subscriptions
Pricing欄で、sapを検索ワードで検索します。
表示される価格は、EC2インスタンス利用料は含まれない、OSのみの料金ですのでご注意下さい。
「Red Hat Subscription」カタログで購入するSAP向けRHELではインスタンスタイプによらずにOS価格が固定になります(インスタンスタイプによらず、仮想マシン2台分の提供価格)。インスタンスタイプによっては、 「Red Hat Subscription」カタログで年間契約をする方が価格面で有利となりますので、ぜひこちらもご検討下さい。
これらの型番は、Red Hatがこれまでオンプレミスのお客様に販売してきたRHELサブスクリプションの型番と同じであり、オンプレミスや他のクラウドでも利用できる年間契約制のRHELサブスクリプションとなります。定価も同じです。これらをAWS上で利用する場合、
- RHELサブスクリプションの年間料金 (前払い形式で、購入月の月末にAWSから請求)
- EC2インスタンス(OSタイプはLinux)を含むAWSインフラの利用料金
の合計金額がAWSから請求されます。
利用方法
AWS Marketplaceのカタログから購入手続きを実施するための事前準備をします。こちらのブログの「事前準備」と全く同じです。
3P PAYG SAP向けRHEL
AWS Marketplaceの3P PAYG SAP向けRHELの利用方法をご紹介します。
以下のWebページから3P PAYG SAP向けRHELの購入手続きを実施します。
AWS Marketplace: Red Hat Enterprise Linux for SAP with HA and Update Services
画面右上にある「View purchase options」をクリックします。
その次に表示されるEULAなどの契約を読んで「Accept Terms」をクリックします。
1分ほど待つと、以下のような画面が表示されます。これで3P PAYG SAP向けRHELの購入手続きは完了です。以下の画面から年間課金制の契約を作る(「Contract options」でインスタンスタイプと数量を選択→「Add」または「Update」→「Create Contract」)こともできますが、時間課金制で3P PAYG SAP向けRHELを利用したい場合、画面右上にある「Continue to Configuration」をクリックします。
起動する3P PAYG SAP向けRHELのバージョンとリージョンを選択して、画面右上の「Continue to Launch」をクリックします。
最終確認を行った後、「Launch」ボタンをクリックします。
無事、購入が完了すると、Red Hatのカスタマーポータル(https://access.redhat.com/)のSubscriptions Inventory一覧でも、「Red Hat Enterprise Linux for SAP with High Availability and Update Services, Full Support (Large Virtual Node, Multi-Tenant, Hourly)」(SKU : RH00806HR)という形でエントリが参照できるようになります。
*下記の赤枠の表示
なお、上述したよう、こちらはRed Hatのプレミアムサブスクリプションになりますので、Red Hatは24時間365日のサポートをご提供します。
Red Hat SubscriptionsカタログでのSAP向けRHEL
以下のWebページから購入手続きを実施します。
画面右上にある「View purchase options」をクリックします。
ユニット「RHEL for SAP Premium」を選択して、数量を入力します。この時、サブスクリプションの自動更新を無効化したい場合は、「Auto-renewal」の箇所で「Do not automatically renew this contract」を選択します。そして、画面下部にある「Subscribe」ボタンをクリックすると、購入手続きが完了します。
ここで購入したサブスクリプションの料金は前払いとなり、購入月の月末にAWSから請求されます。AWSアカウントとRed Hatアカウントとの連携設定をしていない場合、 購入後に表示される「Set up your account」ボタンからRed Hatアカウントとの連携を設定して下さい。
無事、購入が完了すると、Red Hatのカスタマーポータル(https://access.redhat.com/)のSubscriptions Inventory一覧でも、「Red Hat Enterprise Linux for SAP Solutions, Premium (Physical or Virtual Nodes)」(SKU : RH00763)という形でエントリが参照できるようになります。
*下記の赤枠の表示
なお、上述したように、こちらはRed Hatのプレミアムサブスクリプションになりますので、Red Hatは24時間365日のサポートをご提供します。
まとめ
SAP S/4HANAで必要となるAWS上のSAP向けRHELサブスクリプションをご紹介しました。
ぜひご活用いただき、S/4HANA移行プロジェクトのお役に立てば幸いです。